蠍は留守です記

蠍の不在を疑わずに眠る暮らしの記録

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旅とわたし:ポルト(ポルトガル共和国)

このエントリは『旅とわたし Advent Calendar 2016』の13日目です。

小さな漁師町アヴェイロの次は、ポルトのことも取り上げたい。港湾都市としてはかなり大きな街なのだそうで、人口も多い。フランス最大の港湾都市マルセイユよりも都市人口が多い。歴史ある街でもあり、旧市街地はユネスコの世界遺産にも登録されている。

欧州選手権の観戦のために行くことになったポルトガルなのだが、行く前からポルトに滞在できることを楽しみにしていた。前の滞在地リスボンから鉄道で北上。時速220kmを超える特急列車に乗る。

サント・イルデフォンソ教会が見える通り

滞在中はどこの国の試合があるかで街の雰囲気が変わっていた。スペイン戦のあった日はあちこちでスペイン人の大合唱が起こり、あまりのうるささに赤ちゃんを抱いたお母さんがこの夜の終わりのような顔で泣き出してしまう場面なども見かけた。確かに、暮らしている人にとっては迷惑極まりないだろうなぁと思う。

クリスチャーノ・ロナウド似のお父さんが優しくお母さんをなだめ、近くに立っていた地元のおばさんがお母さんに話しかけ、お母さんはようやく落ち着いた。ただ黙って見ていることしかできなかったが(言葉がわからないので)、こんなふうに自然に相手を安心させるコミュニケーションができるのって素敵だなぁと思ったのを覚えている。

スペイン人で溢れる通り

ポルトの旧市街は狭い路地に高さのある建物が立ち並んでいるのが魅力的で、でもそのおかげで私は最後まで土地勘がつかずに苦労した。高い建物でランドマークが遮られるうえ、建物もなかなか区別がつかないからだ。滞在中、ついぞ地図を手放せなかったし、他の街に比べて道を間違える回数が多かった。

欧州選手権観戦後半はずっとポルトに宿を取っていたため、各地方の試合にはサン・ベント駅から鉄道で出向いた。サン・ベントは駅舎自体が芸術品と言っていい。あらゆる角度から眺めて楽しむことができる。アズレージョももちろん傑作だが、レリーフのような細かい装飾も見逃してはならない。

前回紹介したアヴェイロへも、サン・ベント駅から向かった。ポルトガルは車窓の風景も変化があって楽しい。ポルトガル国内を旅行するなら、迷わず列車での旅をおすすめしたい。

サン・ベント駅構内のアズレージョ

ポルトにはドウロ川という大きな川が流れている。遡ればスペインまで行く。船好きの私がクルーズに出ないわけはない。もちろんポルトでもドウロ川クルーズに参加した。しかし、これがとんだアクシデントで、案内されたツアーがオーダーと違うものだったのだ。夕方にはポルトに戻ってフットボール観戦があるのに、夜遅くならないとポルトに戻らない船に乗せられてしまった。

確かに、スペイン国境の街まで行くクルーズは素晴らしかった。帰りのことが気がかりでならなかったが、連日の欧州選手権の喧騒(本当に喧騒としか言いようのない毎日だ)から離れて、うっとりするほどリラックスすることができた。だからその時間はその時間を100%楽しむよう、意識して過ごした。

ドウロ川から見上げたポルト

そして復路は船から降り、事情を話して手配してもらったタクシーに乗って、山2つくらいの峠越えを敢行。ヘアピンカーブのような道を攻めて攻めて攻めまくるドライバー。おかげで時間には間に合ったけれど、車で何度も吐きそうになったのは後にも先にもあのときだけだ...。

そんな想い出深いドウロ川のまわりには、カイス・ダ・リベイラという地区がある。滞在中はすごいにぎわいで、席の空いているお店なんか見つからないんじゃないかと思うほどの人出だった。けれどもちっとも不快な感じではなく、心から楽しくなっていつまでも遊んでいたいような雰囲気でウキウキした。

カイス・ダ・リベイラの夜

ポルトを再訪したい理由は、アヴェイロ同様、通常時の街の顔を見たいからというのがひとつ。覚えられなかった地図ももう一度辿ってみたいし、もっと落ち着いて料理も食べたい。

それから、ポルトではデジャ・ビュやジャメ・ビュを何度となく経験した。あの感じがなんなのか確かめたくて、もう一度同じ石畳を踏んでみたいなぁと思っている。あるとき踏んだ石畳の感触を、今でも鮮明に覚えていて、その感触はきっとどこかで何度となく味わったことのある感触なのだと、なんとなく心が信じているのだ。

ライトアップされた坂道を、国旗を背負った子どもが何事か叫びながら駆け下りていった足音。古本屋の固い路地に響いていた若い女性のハイヒールの音。狭い歩道でおばあさんが押す手押し車がコトコトと回る音。私はもっと、ポルトの石畳が鳴らす音を聞く必要がある。なんとなくなのだけれど、そんな気がしている。


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