蠍は留守です記

蠍の不在を疑わずに眠る暮らしの記録

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旅とわたし:小豆島(日本)

このエントリは『旅とわたし Advent Calendar 2016』の10日目です。

南仏はよく熱海や伊豆などと比較される。確かに海岸線の起伏や建物の雰囲気が似ていて、特に西伊豆なんかは確かに南仏っぽさがあるなぁと感じる。

熱海や伊豆も好きだし景色もきれいなのだが、日本には南仏よりも美しいと感じる場所がある。小豆島だ。小豆島は瀬戸内海にあり、香川県に属している。近年では瀬戸内国際芸術祭でも有名なので、訪れた事がある人も多いと思う。

寒霞渓からの景色

小豆島に行くきっかけになったのは、角田光代の『八日目の蝉』の舞台として描かれた小豆島が心打つほど美しかったこと。角田光代の描く風景にはいつも心惹かれる。あとは瀬戸内海を渡るフェリーに乗りたかったというのも大きくて、とにかく行きたくて行きたくてたまらなくて行った場所だった。

この旅は珍しく友人との2人旅で、いろいろな意味で思い出が深い。滞在中は、友人とふたりでおしゃべりをしながら『八日目の蝉』のロケ地を訪ねて歩いたり、気の向くまま散歩したりして過ごした。寒霞渓では猿の群れの移動とかちあって肝を冷やしたり、ソフトクリームを食べ歩いてああでもないこうでもない言ったり、ひとり旅にはない楽しさを味わった。

寒霞渓からおりる山道

いつも思うことだが、海と山の両方がある景色というのは本当に美しい。このアドベントカレンダーの初日に紹介したボラボラもそうだし、昨日紹介したカリー=ル=ルエもそうだ。もしかしたら、自分の好きな景色の条件なのかもしれない。

素晴らしい景色をいくつか見てきた中でも、小豆島は別格と言いたいくらい穏やかな眺めを見せてくれた。まるで空気そのものがまろやかであるかのように見える。

また、時間にともなって変化する場所も魅力的だ。1日に2回だけ干潮時に現れるエンジェルロードという小道がある。沖に浮かぶ小さな島まで徒歩で行くことができるようになるのだが、景色の美しさだけでなくストーリーを感じるよさがある。

天使の散歩道と呼ばれる砂浜

加えて、歴史を感じる古い建物があるのがたまらない。小豆島には人が暮らしを営んできた歩みが見える街並みがあるのだ。特に興味深く見て回ったのは、お醤油の蔵や記念館。お醤油の蔵を覗くと発酵を待つ樽がある。酵母が染み渡っているであろう外壁が街の景観を作る。

もちろんそこで作られているお醤油はおいしくて、今でもときどき取り寄せたりしている。お醤油だけでなく、そうめんもおいしくて、普段はそうめん嫌いな私が好物になってしまった。

醤油蔵の外壁

私は比較的、知らない土地への移住を積極的に考えるほうではないと思っている。国内あちこち行ってみても、今住んでいる街を出てまでも暮らしてみたいと思う土地はほとんどなかった。

しかし、小豆島では「ここで暮らせないかな」「念の半分くらいはここに滞在できないかな」と思わされた。今でも「どうしても国内で移住をしなくてはいけないとしたら?」と問われれば、第一希望に小豆島が挙がる。実際に移住することはないだろうが、夢想するのは楽しい。

フェリーのりばの夕暮れ

ここまで書いてきて、小豆島に再訪したい理由を挙げる必要はもうないのかもしれない。強いて言うなら、前回行けなかった場所がたくさんあるので、もっとたくさん見て回りたいという思いがある。あとは前回のカリー=ル=ルエと同様、何の予定を立てず長期滞在したいなぁという気持ちもある。

ただ、ちょっとだけ違うのは、異邦人であることの心地よさは味わえないだろうなということ。それは海外と国内の違いだなと思っていて、小豆島に長期滞在するとしたら、どんな形がいいのか考える必要がある。そしてそれを考えるのもまた楽しい時間だ。

海外旅行と国内旅行には、それぞれ違ったよさがある。ひとり旅と人と一緒の旅にも違ったよさがある。好きなタイミングで好きな旅を選べる自由があることを、うれしく思う。


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