蠍は留守です記

蠍の不在を疑わずに眠る暮らしの記録

20170509013806

旅とわたし:リスボン(ポルトガル共和国)

このエントリは『旅とわたし Advent Calendar 2016』の14日目です。

ポルトガルの街について書いてきたので、首都であるリスボンも紹介しておきたい。リスボンの首都圏はテージョ川と呼ばれる川の河口付近に位置している。何も知らずに一見すると、海に面しているように見える。テージョ川はそれくらい広い。

リスボンは、私にとってはじめて降り立ったヨーロッパ。渡った目的がポルトガル国内各地で行われるフットボールの欧州選手権を観戦するためだったので、初日からタフな毎日だった。リスボンを思い起こすときには、そのときの新鮮さがありありと蘇る。

ポンバル公爵とライオンの像

滞在中はポンバル侯爵広場と呼ばれるあたりに宿を取っていたので、その近辺のメトロとバスを多用した。リスボンは"7つの丘の街"と呼ばれる大変坂の多い街で、登ったと思ったら下る、下ったと思ったら登る、の繰り返し。バスが路地に入れば、まるでジェットコースターみたいだった。

リスボン大学のあるあたりは平坦で、1kmちょっとの細長い公園が中央分離帯のような形で続いている。訪れた6月は日差しの強い季節で、ジリジリと焼かれるような暑さの中を散歩する際には、公園の風通しのよいベンチや涼しい木陰がうれしかった。

紫色の花を咲かせるジャカランダ

リスボンの街にはジャカランダという木がある。桜の木を Photoshop で色調補正したみたいな、不思議な紫色の花を咲かせる木だ。咲き誇る様子はとても美しいが、姿形が桜に似ているせいで色彩に慣れなくて、なんだか脳が混乱するような気がしたものだ。

不思議な色の花とジェットコースターのような路地。言葉はまったく通じない。おもしろいくらい異世界に来たなぁと、とても楽しくなった。あのときくらい新鮮に異国を楽しむ感覚は、今はあまり持てていないなぁ。未知の世界がたくさんあるって、すごくしあわせなことだったんだなぁ。

バスの中から見える落ち着いた雰囲気の建物

技術的にもまだ不便が多くて、当時はちょうどポルトガル国鉄がオンラインでのサービスを少しずつはじめていた頃だった。念のため路線検索したものを窓口に持っていったら、駅員さんはそれを見たことがなかったという。とても珍しそうに眺めていたが、おかげでうまく言葉が通じなくてもスムーズに鉄道の切符を買うことができた。

今はどこでもインターネット回線が使えるし、スマートフォンで検索も予約もできるし、不便を感じることが少なくなってきた。できることが増えてうれしいし、より自由に旅ができるのはすばらしい。だけど、時々ほんの少し思う。あの頃の心細さや頼りない気持ちは、宝物みたいだったなって。

コロンボ・ショッピングセンターの広場に集まるイングランドサポーター

滞在中はイングランドvsフランスの試合があって、あちこちでイングランドサポーターが無茶する姿を見た。肝心の試合はずっとイングランドがリードしていたが、ロスタイムでフランスが逆転するという展開。当然のようにイングランドサポーターが怒号とともに暴れ出したので、面倒に巻き込まれないうちに急いでスタジアムを出た。

街に戻るとイングランドサポーターの姿はほとんど見かけず、レストラン街は平和だった。味は最高だけど、どの味もはっきりとしているポルトガル料理。甘い。塩辛い。甘い。塩辛い。ときどき舌がくたびれるので、炭酸水でリフレッシュしながら楽しむ。それでも何を食べてもおいしかった。

夜のレストラン街

リスボンに再訪したい理由は、アヴェイロポルトと同様に通常時のリスボンを見てみたいから。それから、はじめてづくしで大冒険気分だった新鮮な気持ちを、思い出しに行きたいな。今はきっと、あの頃よりずいぶん便利になっているんだろう。

ポルトガルは美しい国だった。ため息の多い人々がふいに見せる笑顔も、乾いた気候と食事の塩辛さにかすれた自分の声も、溢れ出る郷愁の中に思い出される。また行きたいなと思った回数はいちばん多いに違いない。いつかまたのんびりと歩ける日を、楽しみにしている。


参考URL

Copyright © Hitoyam.